公共建築だけでなく、住宅でも「誰もが使いやすい空間デザイン(ユニバーサルデザイン)」が求められています。
案内表示などのサイン計画や、取手の形状など様々なデザインの対象がありますが、「空間の形のわかりやすさ」を考えることも、そのアプローチのひとつです。
誰もが無理なく安全に移動するためには、それぞれの人がその空間の形を正しく把握することが大切です。
この「空間の形」の把握には、空間を構成する「面」の状態が影響を与えます。
写真は、ある商業施設のエスカレーター(下り)です。
人が乗る面(ステップ)には細かい溝があり、進行方向に縦じまの模様が見られます。
このような「面」の表面の「肌理(きめ)」を「テクスチャー(Texture)」といいます。
一般的なエスカレーターのステップは、写真の様に強い方向性があるテクスチャーが多く見られます。
方向性の強いテクスチャーは、時にその「面」の位置をわかりにくくすることがあります。
エスカレーターのステップを拡大した写真です。
遠近感がなくなり、段差がわかりにくくなります。
段の先端部分の黄色い着色を取り除くと、ますますわかりにくくなります。
段差の存在を正確に把握することができなければ、転落につながり、大きな事故を引き起こす可能性があります。
エスカレーターの乗る面の黄色く着色されている縁は、乗ることができる「面」の範囲をはっきりさせ、その位置(段差の存在)を把握しやすくすることにも役立っていると考えられます。(黄色い縁には、くつや服の裾などが巻き込まれないようにするための注意喚起の目的があります。)
ここでは、エスカレーターのステップを例に、テクスチャーが空間の形のわかりやすさ(形状の把握のしやすさ)に与える影響についてご紹介しました。
誰もが使いやすいデザインを考える時には、テクスチャーの影響も検討することが大切です。